お客様体験記

マルの椅子〜 18年の温もり〜

大切なペットを失うことは、身も心も引き裂かれるような痛みと悲しみを伴います。

この記事は、愛猫との別れを経験した主人公による実話をもとにしたペットロスの体験談です。

茶トラ猫マルとの18年間の生活、そして突然訪れた別れ。

家族全員が無意識に避けるようになったソファの右端。

静かな喪失感が漂う日々の中、5歳の娘の「マルのところに座ってもいい?」という一言が、凍りついていた時間を再び動かします。

ペットロスの悲しみから、少しずつ前に進む家族の姿を温かく描いた、心が癒される物語です。

出会いと絆の始まり

家に帰るたびに、玄関を開けると必ず「にゃぁ」という甘えた声と共に、茶トラの姿が現れた。

マルだ。18年間、その光景は変わらなかった。

マルが我が家にやってきたのは、私が大学生になったばかりの春のことだった。

当時住んでいたアパートの裏庭で、鳴き声が聞こえ、見てみると生後間もない子猫が一匹、震えていた。

その小さな命を見捨てることができず、こっそりアパートに連れ帰った。

本当は動物禁止だったのだが。

「まぁるい顔してるね」と母が言ったことから、マルと名付けた。

最初は手のひらに乗るほどの小さな存在だったが、あっという間に成長し、家族の一員となった。

特に私のことを気に入ったのか、いつも私のそばにいた。

勉強していると膝の上、寝ていると枕元で丸くなり、何よりリビングのソファで過ごす時間が好きだった。

ソファの右端、窓際の陽だまりの位置が彼のお気に入りの場所となった。

人生の節目と家族の成長

大学卒業、就職、結婚、そして子供の誕生。

人生の大きな節目にもマルはいつもそばにいた。

私が結婚してこの家に移り住んだ時も、迷わずマルを連れてきた。

新しい家でも、リビングのソファの右端が彼の定位置となった。

子供が生まれた時は少し心配だった。

マルはすでに12歳の高齢だったし、赤ちゃんにどう反応するか予測できなかった。

しかしその心配は杞憂だった。

マルは赤ちゃんを自分の子どものように見守り、娘が泣き出すと、私より先に駆けつけることもあった。

娘が3歳になる頃、マルの動きが緩慢になりはじめた。

病院で検査すると、腎臓の機能が低下していることがわかった。

日に日に食欲が落ち、痩せていくマルを見るのは辛かった。

それでも彼はいつもの場所、ソファの右端で日向ぼっこをしながら穏やかに日々を過ごしていた。

別れと空席の痛み

ある冬の朝、いつものようにリビングに行くと、ソファの上で眠るように息を引き取っていた。

18年間、家族として共に過ごした時間が一瞬にして思い出に変わった。

娘に伝えるのが最も辛かった。

「マルはお空に行っちゃったんだよ」と言うと、5歳になったばかりの娘は不思議そうな顔をしたあと、「また降りてくる?」と純粋に聞いてきた。

マルがいなくなった後も、家族全員が無意識にソファの右端に座ることを避けていた。

まるでそこはマルの椅子であり、いつか彼が戻ってくるかのように。

私も夫も、「マルの場所だから」と言って、他の場所に座っていた。

特に辛かったのは、帰宅した時の静けさだった。

もう「にゃぁ」という出迎えはなく、膝の上の温もりも感じることはできなかった。

寝る前に娘と一緒にマルの写真を見ながら、「今日もいい子にしてたよ、マル」と話す日々が続いた。

癒しと記憶の継承

マルがいなくなって3ヶ月が過ぎたある夕方のこと。

いつものようにリビングでテレビを見ていると、娘がソファに近づいた。

彼女はしばらくソファの右端を見つめていた。

「ママ、マルのところに座ってもいい?寂しがらないように」

その言葉に、私の目から涙があふれ出た。

マルがいなくなったことを理解しつつも、彼の存在を大切に思う娘の優しさに胸が締め付けられた。

「いいよ」と涙ながらに答えた。

娘はそっとソファの右端に座り、小さな手でソファの生地を撫でた。

「マル、お空から見てる?私がここにいるよ、寂しくないでしょ?」

と優しく語りかける姿に、マルがそこにいるような気がした。

それからというもの、娘はよくソファの右端に座るようになった。

最初は私も複雑な気持ちだったが、次第にマルの椅子が娘の場所になっていくことを受け入れた。

マルはもういないけれど、彼の温もりは家族の中に生き続けていた。

ある夜、娘が寝た後、一人でリビングに座っていると、ふとソファの右端に視線が向いた。

そこには何もなかったが、18年間の記憶が鮮明によみがえった。

マルが初めてこの家に来た日、病気になった日、最後に撫でた時の感触。

すべてが懐かしく、温かい思い出として胸に残っていた。

時々、ソファに座ると、マルがいた頃のように横に何かがいるような気がする。

幻かもしれないが、それは私にとって大切な感覚だ。

娘もきっと同じことを感じているのだろう。

「マルありがとう。私たちに家族の大切さを教えてくれて」

窓の外は満月だった。

月明かりが部屋を静かに照らしている中、私はソファの右端に手を置き、目を閉じた。

そこにはもうマルはいないけれど、確かに18年分の愛情が宿っていた。

マルの椅子は今も我が家のリビングにある。

今では家族全員がそこに座るようになった。

それはもう悲しみの象徴ではなく、大切な家族の記憶を繋ぐ場所になっている。

そして時々、そこに座ると不思議と温かい気持ちになる。

まるでマルが今も私たちを見守ってくれているかのように。

 

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この記事を書いた人

⚫︎中村はな⚫︎
メモリアルアドバイザー兼ライター

大切な方との思い出を形に残すお手伝いを専門とし、これまで1,000件以上のメモリアルグッズのコーディネートを手がけてきました。

ご遺族の心に寄り添った記事執筆を心がけ、メモリアルに関する執筆実績は500件以上。

グリーフケアを専門としているため、お客様の心情に配慮しながら丁寧な説明と提案が可能です。

大切な方との思い出を末永く心に刻むお手伝いをさせていただきます。